ともかく日本にも民主憲法ができた。明治二十二年にできた旧憲法では、支配する者の権力がどんなに絶対であり、人民はどんなに絶対従順にそれに服従しなければならないかということが眼目としてつくられていた。これは欽定憲法と呼ばれてい・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・それは、町人たちによって、きかれたようで実は決して服従されていなかった。江戸趣味といわれる、着物や羽織の裏に莫大な金をかける粋ごのみ、一見木綿のようでひどく質のいい絹織である結城紬、こういうこのみは、政治上の身分制に属しながら、経済の実力で・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 今日、私たちが、責任を知るというとき、しろと云われたことは何でもやる、死んだ思いでするという判断のない服従からの行為を意味するのではなくて、人間として、職業婦人としての生活をしているものとして、するべきこととしない筈のこととの判別を明・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・お百姓さん達はそれに絶対に服従していたのです。そして女の人の封建時代の立場と申しますものはどういうものかといえば、それは全く男の人の言うなりであった。いうなりと申します以上に、男の人の便宜のための生物であったのです。だから結婚などと申しまし・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・そして自分は女房には絶対服従を要求しているが、工合がわるいと云えば直ぐ医者にやるしなどということを尤もらしく云っている。彼の表情が次第に変った。四角い顔の半面が攣れていたようなのは消え、赤味も減り、蒼白く無表情に索漠とした顔つきである。肩つ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・彼のような穏当な学究さえも彼の理性が超国家主義と絶対主義に服従しないで立っているという理由で起訴され裁判された。河合栄治郎が学者としての良心の最低線を守ろうとした抵抗の精神は、人事院規則に対する南原の線を守る人たちの抵抗でもある。 日本・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・習ってゆく道すじから云うと、能や仕舞ほど形式への絶対の服従を求める芸は殆ど他にない位と云える。お花でも投げ入れとか、お茶でも野立てとか、その場その時の条件を溌溂とした心に映して、工夫を働かせて人の心も自分の心も慰めるというものもある。仕舞は・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・女は尋常に服従したそうだ。無論小川君の好嫖致な所も、女の諦念を容易ならしめたには相違ないさ。そこで女の服従したのは好いが、小川君は自分の顔を見覚えられたのがこわくなったのだね。」ここまで話して、主人は小川の顔をちょっと見た。赤かった顔が蒼く・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・ それとともにもう一つ見落としてはならぬ変化は、社会組織の基礎として民衆の共同や協力を力説する思想が著しく栄えて来たことである。服従の代わりに協力。命令の代わりに協議。従ってまた個人は、社会に安全に生息するために、ある型に自分をはめ込ま・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・我々はむしろ姙まれたものに駆使されその要求する所に無条件に服従するほかないのである。 特に芸術のごとき複雑困難な表現手段を必然的に必要とする内生は、非常に高められたものであるとともにまたきわめて繊細なものである。その表現に際して虚偽を絶・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫