・・・ 東京朝日新聞。軽井沢に避暑中のアメリカ富豪エドワアド・バアクレエ氏の夫人はペルシア産の猫を寵愛している。すると最近同氏の別荘へ七尺余りの大蛇が現れ、ヴェランダにいる猫を呑もうとした。そこへ見慣れぬ黒犬が一匹、突然猫を救いに駈けつけ、二・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・と一度も言わなかったは、二葉亭は日本の政治家にも実業家にも慊らなかったのだ。朝日新聞記者として永眠して死後なお朝日新聞社の好意に浴しているが、「新聞記者はイヤだ、」といった事は決して一度や二度でなかった。ただ独り職業ばかりではない。その家庭・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・すると、それを聴きつけたのが、府庁詰の朝日新聞の記者で、さっそくそれを新聞記事にして「秋山さんいずこ。命の恩人を探す人生紙芝居」という変な見出しで書きたてましたので、私はこれは困ったことになったわいと恥しい思いをしていました。ところが、その・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・当時東京朝日新聞でも「唯一の大正生れの作家が現れた」という風に私のことを書いてくれた。「夫婦善哉」を小山書店から出さないかというような手紙もくれた。思えば、私の恩人である。 私にもっとも近しい、そして恩人である作家を、突如として失ってし・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・ 二百八十円を限度として、東京朝日新聞よろず案内欄へ、ジュムゲジュムゲジュムゲのポンタン百円、食いたい。呑みたい。イモクテネ。と小さい広告おだしになれば、その日のうちにお金、お送り申します。五年まえ、おたがいに帝大の学生でした。あなたは藤棚・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 尚、この四枚の拙稿、朝日新聞記者、杉山平助氏へ、正当の御配慮、おねがい申します。 右の感想、投函して、三日目に再び山へ舞いもどって来たのである。三日、のたうち廻り、今朝快晴、苦痛全く去って、日の光まぶしく、野天風呂にひたって、・・・ 太宰治 「創生記」
・・・孤高狷介のこの四十歳の天才は、憤ってしまって、東京朝日新聞へ一文を寄せ、日本人の耳は驢馬の耳だ、なんて悪罵したものであるが、日本の聴衆へのそんな罵言の後には、かならず、「ただしひとりの青年を除いて」という一句が詩のルフランのように括弧でくく・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・席上東京朝日新聞記者村山某、小池は愚直なりしに汝は軽薄なりと叫び、予に暴行を加う。予村山某と庭の飛石の間に倒れ、左手を傷く。 これに拠って見ると、かの「懇親会」なる小説は、ほとんど事実そのままと断じても大過ないかと思われる。私は、おのれ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ この記事が東京朝日新聞に出たのを見た滝野川の伊達氏が、わざわざ手紙をよこして、チャップリンの文楽見物の事実を知らせてくれた。最終日に「良弁杉の由来」の一部分を見て、夕飯後明治座へ行ったそうである。・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・それほど相撲に縁のない自分が、三十年ほど前に夏目漱石先生の紹介で東京朝日新聞に「相撲の力学」という記事を書いて、掲載されたことがある。切り抜きをなくしたので、どんな事を書いたか覚えていないが、しかし相撲四十八手の裏表が力学の応用問題として解・・・ 寺田寅彦 「相撲」
出典:青空文庫