・・・昔一高の校庭なる菩提樹下を逍遥しつつ、談笑して倦まざりし朝暮を思えば、懐旧の情に堪えざるもの多し。即ち改造社の嘱に応じ、立ちどころにこの文を作る。時に大正壬戌の年、黄花未だ発せざる重陽なり。・・・ 芥川竜之介 「恒藤恭氏」
・・・そこで久しく人間から遠ざかって朝暮ただ鳥声に親しんでいた頃、音楽というものはこの鳥の声のようなものから出発すべきものではないかと考えた事があるそうである。津田君が今日その作品に附する態度はやはりこれと同じようなものであるらしい。出来るだけ伝・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・特徴がないその顔には、しかし、何年も一つ仕事についていて、しかも朝暮本ばかりを対手にしている人間の、表情の固定した、おとなしい強情さというようなものがはっきりと感じられるのであった。 それから三十年近い歳月の間には、波瀾があった。私は一・・・ 宮本百合子 「図書館」
出典:青空文庫