・・・いよいよ済まぬ事をしたと、朝飯もソコソコに俥を飛ばして紹介者の淡嶋寒月を訪い、近来破天荒の大傑作であると口を極めて激賞して、この恐ろしい作者は如何なる人物かと訊いて、初めて幸田露伴というマダ青年の秀才の初めての試みであると解った。 翁は・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・ そのうちに、ご飯になって、吉雄は、お膳に向かい、あたたかなご飯とお汁で、朝飯を食べたのであります。「番茶がよく出たから、熱いお茶を飲んでいらっしゃい。体が、あたたかになるから。」と、お母さんは、吉雄の、ご飯が終わるころにいわれまし・・・ 小川未明 「ある日の先生と子供」
・・・ 翌日は、日曜日でした。朝飯を食べると、正ちゃんは、外へ駆け出してゆきました。往来で、徳ちゃんたちが、遊んでいました。徳ちゃんは、政ちゃんと同じ年ごろでした。「徳ちゃん、ペスが帰ってきたって、ほんとうかい。」 正ちゃんは、徳ちゃ・・・ 小川未明 「ペスをさがしに」
・・・ 朝飯を済まして、書留だったらこれを出せと云って子供に認印を預けて置いて、貸家捜しに出かけようとしている処へ、三百が、格子外から声かけた。「家も定まったでしょうな? 今日は十日ですぜ。……御承知でしょうな?」「これから捜そうとい・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 暗い中に朝飯を食ってそれぞれ働きに行く村のおやじどもが声をかけて行く。それがまたまじめで、健康で、生活とか人生とかいうことの意味を深く弁えている哲人のようにも、彼には思われたりした。そしてこの春福島駅で小僧を救った――時の感想が胸に繰・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・終わって二人は朝飯を食いながら親父は低い声で、「この若者はよっぽどからだを痛めているようだ。きょうは一日そっとしておいて仕事を休ますほうがよかろう。」 弁公はほおばって首を縦に二三度振る。「そして出がけに、飯もたいてあるから勝手・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・ 翌朝早く起きいでて源叔父は紀州に朝飯たべさせ自分は頭重く口渇きて堪えがたしと水のみ飲みて何も食わざりき。しばししてこの熱を見よと紀州の手取りて我額に触れしめ、すこし風邪ひきしようなりと、ついに床のべてうち臥しぬ。源叔父の疾みて臥するは・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・そして清三の朝飯の給仕をすますと、二階の部屋に引っこもって、のらくら雑誌を見たり、何か書いたりした。が、大抵はぐてぐて寝ていた。そして五時頃、会社が引ける時分になると、急に起きて、髪を直し、顔や耳を石鹸で洗いたてて化粧をした。それから、たす・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・勿論厳格に仕付けられたのだから別に苦労には思わなかったが、兎に角余程早く起き出て手捷くやらないでは学校へ往く間に合うようには出来ないのみならず、この事が悉皆済んで仕舞わないうちは誰も朝飯を食べることは出来ないのでした。斯のように神仏を崇敬す・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・「実は――まだ朝飯も食べませんような次第で。」 と、その男は附加して言った。 この「朝飯も食べません」が自分の心を動かした。顔をあげて拝むような目付をしたその男の有様は、と見ると、体躯の割に頭の大きな、下顎の円く長い、何となく人・・・ 島崎藤村 「朝飯」
出典:青空文庫