・・・路一陣のこうふう送春を断す 名花空しく路傍の塵に委す 雲鬟影を吹いて緑地に粘す 血雨声無く紅巾に沁む 命薄く刀下の鬼となるを甘んずるも 情は深くして豈意中の人を忘れん 玉蕭幸ひに同名字あつて 当年未了の因を補ひ得たり 犬川荘・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・その実験は未了でその結果は未成品に過ぎないが、それにもかかわらずその大要をしるしてみたいと思うのである。 実験を始める前に私はまず自分の過去の経験を捜してみた。 いつだったか、印刷工がストライキをやって東京じゅうの新聞が休んだ事があ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・酒の味に命を失い、未了の恋に命を失いつつある彼は来るべき戦場にもまた命を失うだろうか。彼は馬に乗って終日終夜野を行くに疲れた事のない男である。彼は一片の麺麭も食わず一滴の水さえ飲まず、未明より薄暮まで働き得る男である。年は二十六歳。それで戦・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ ところが五年の議会ではまたこの公民権がもりかえされて、ともかく衆議院では可決されるところ迄こぎつけたが、貴族院では審議未了となり、全国町村長会議では、婦人公民権案に反対を決議しているというのは、実に町村長などという地方的有力者に代表さ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫