・・・ かりに既婚者の男子が一人の美しき娘を見るのと、未婚者の男子がそうするのとでは、後者の方がはるかに憧憬に満ちたものであることは容易に想像されるであろう。それが未婚者の世界の洋々たる、未知のよろこびなのだ。その如くに童貞者にあるまじりなき・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・青春未婚の男女であってこの幸福を求めて胸を躍らせない者はないであろう。またそれは与えられるのが常である。そうでないように見えてもやはりときに合うものである。ある若い女性は私の処へ初めてきたとき「私のような者を愛してくれる人はありませんわ」と・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ けれども、本をよむ婦人の何割が未婚のひとで、その何割が家庭をもっている婦人たちだろうか。妻たちよ。母たちよ。肉体のいよいよ永い若々しさへの努力とともに、精神の若い弾力を保つ心がけこそ、新しい日本の女性の美の必要であると思う。 ・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・それだのにこの当然さ自然さのために、今日総ての未婚と既婚の真面目な女性たちが、言い尽せない複雑広範な問題を日々の中に感じている。これはどういう訳だろう。 人間が極く原始な集団生活を営んでいた頃、そこにどんな恋愛と結婚のモラルがあり、・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ けれども、翻ってそれを聞きその影響を受けようとする大多数の男性女性は、事実に於て今日如何なる生活を営んでいるだろう。 未婚者のことは暫く置く。既に結婚した者の多数は、大抵の場合、今日、それ等の論議を高声ならしめた素因を、過去幾年か・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・この風変りな未婚の淑女も、そろそろ中年未婚婦人と呼ばれる方に近くなって来てみれば、匙をなげた意味で、気まかせにさせるあきらめもついたというわけであろう。フロレンスはついにロンドンの医者街、ハーレー街にある私立の慈善病院の監督となることができ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ 翁は五節句や年忌に、互いに顔を見合う親戚の中で、未婚の娘をあれかこれかと思い浮べてみた。一番華やかで人の目につくのは、十九になる八重という娘で、これは父が定府を勤めていて、江戸の女を妻に持って生ませたのである。江戸風の化粧をして、江戸・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫