・・・明治四十年頃に未熟であった日本の婦人解放論者たちが、まず自分たちの婦人の権利を示すシンボルのように考えて行ったそういう行動上の示威からはじまって、恋愛も結婚もすべての面で自分の思うとおりに生活していっていいのだという気持もある。ところがそう・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・この一生懸命で濃厚な作品に、本質的な未熟さとしてあるのは、庶民の生活感情と勤労者の生活感情とのちがいについて、作者がちっともわかっていないという点であるということを。「一つの芽生」は、弟の死という事実に面して、その悲しみをどこまでも客観・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・無産派の人々が当時の未熟な試案の下でこの社会と文学との上に主張した「出生」の問題――貧乏人でなければ、或は労働者でなければ新しい社会の建設やその文学に参加出来ないものであるという風な考えかたが、わたしに納得ゆかなかった。納得ゆかなくてもそれ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・ あの評論にふくまれている誤謬は、プロレタリア文学の戦線拡大に対する政治的態度の未熟さと、そこからひきおこされた文学に対するピューリタニックな熱情の噴出にあったのだった。それは、作品を批評された作家たちにやけどさせたばかりでなく、筆者自・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・そのころのプロレタリア文学運動のおかれていた未熟でやや機械的だった文学の階級的基盤の解釈なりに、プロレタリア文学もやっぱり「伸子」を文学のらち内での現象としてしか見ていなかったことがわかる。 最近二三年このかた、「伸子」ははじめて読者の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・これまで自分の心にあふれていて、その要素はいろいろな愛情を未熟に熱烈にひとっかたまりにぶつけていたものが失われると思いこんでいるから苦しいのであるし、その無我夢中の苦しさ、その半狂乱に、云うならばむすめ心もあるというものだろう。それと一緒に・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・ 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作者はいわゆる筆が立つと・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・連記制は、この未熟さに拍車をかけて、三名選挙するのなら、それぞれ全く反対の立場の政党の有名人一人ずつに、男へ投票するなら女も、と、婦人一名という工合に、気まかせに組合わされた。つまり、政府で売出す富くじみたいに、三様に書いてみれば、どれか一・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 明治維新は本当のブルジョア革命でなく、昔の殿様である封建領主、下級武士たちの権力に未熟な産業資本が結合したもので、土地小作の関係は実に古い封建制度のままもちこされた。そのために日本の農村の貧困は甚しく農家から貧乏のために一年幾ら、二年・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・それからあとにつづく、より若い、より未熟ではあるが前途の洋々とした作家というものの層は、空白となっている。このことは、とりもなおさず、過去の文学の休止符はどの辺でうたれたかというきびしい現実を示す一方、この数年の間、日本の民衆生活内部にある・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
出典:青空文庫