・・・あるいは透視画法を用いる事はある国民には普通であるのに他の国民には容易に了解ができないのもその根元は直接感覚によるのと、感覚を離れた観念によるとの差と考える事もできるので、少なくもこの点だけにおいては未開人種や子供の描く観念的な絵は泰西名匠・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・もちろん今でも未開時代そのままの模範的な迷信が到るところに行われて、それが俗にいわゆる知識階級のある一部まで蔓延している事は事実であるが、それとは少し趣を異にした事柄で、科学的に験証され得る可能性を具えた命題までが、一からげにして掃き捨てら・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・野蛮未開、耕して食らい井を掘りて飲むが如き、これなり。すでに食らいすでに飲むときは、口腹の慾、もって満足すべしといえども、なお足らざるものあり。衣服なかるべからず、住居なかるべからず。衣食住居すでに備わり、一家もって安楽なり。なお足らざるも・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 空が荒模様になり、不機嫌な風がザワザワ葉を鳴らし出すと、私の内にある未開な原始的な何ものかが不可抗の力で呼びさまされる。凝っと机について知らぬ振などしていられない。私はきっと梢の見えるところまで出かけ、空を眺め、風に吹かれ、痛快なおど・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・ 明治三十九年の春、児童心理学をまるで知らない若い感情家の母と、幼い未開人めいたその娘とは、暖い十畳の日だまりで、神の微笑そうな涙を切に流した。 霜のない地面から長閑な陽炎が立つ。 雀が植え込みの椿の葉を揺るささやかな音。程なく・・・ 宮本百合子 「雲母片」
・・・私の裡には、或る程度まで何でも感じて見たく、知って見たい未開人のような好奇心、よい場合には探求心がありますのです。面白いでしょう。私共の日常生活が、形式内容の上に違っているとすれば、それ等は皆、若し私の推察が誤っていなければ、異った二種の人・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・ この責任という感情は、人間のいろいろの感情の発達の、最も高い段階に属する感情の一つである。未開人は責任の感情というものが極めて粗朴の状態におかれている。人間生活への思意が複雑明瞭になって来る度につれて、さながらしずかにさしのぼる月の運・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ライン沿岸地方は、未開なその時代のゲルマン人の間にまず文明をうけ入れ、ついで近代ドイツの発達と、世界の社会運動史の上に大切な役割りを持つ地方となった。早くから商業が発達し、学問が進み、人間の独立と自由とを愛する気風が培われていたライン州では・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・夫の苦痛はそこからはじまっている。未開なバリ島の性の祭典には、けがされない性の陶酔があり、主人公のところに東京のひきさかれた生存の頽廃があるというコントラストだけがとらえられても、従属させられている男女の社会生活におけるヒューマニティーの課・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・七十枚、『婦公』「未開の花」七枚半、『ペン』に「時計」という随筆十枚昨日書いて、略九十枚近い父のための原稿を整理して、四五十枚は執筆しています。 ――○―― 寿江子この頃鵠沼で、体も糖尿の方は大分よくなって居ります。だが、器楽・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫