・・・されど、之等は要するに皆かれの末技にして、真に欽慕すべきは、かれの天稟の楽才と、刻苦精進して夙く鬱然一家をなし、世の名利をよそにその志す道に悠々自適せし生涯とに他ならぬ。かれの手さぐりにて自記した日記は、それらの事情を、あますところ無く我ら・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・ 不安の文学の瀰漫した呼声、それに絡んで作家の教養とか文章道とかが末技的に云われている一面、その頃の合言葉として更に一つの響があった。人生と文学とにおける高邁な精神という標語である。「高邁なる精神」は横光利一氏とその作品「紋章」をとり囲・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・僕は如何に考ふるも、彫虫の末技に誇るよりは高等なるを信ずるものなり。」と感じつつも「プロレタリアは悉く善玉、ブルジョアは悉く悪玉とせば、天下はまことに簡単なり。簡単なるには相違なけれど、――否、日本の文壇も自然主義の洗礼は受けし筈なり。」と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・しかしながら、一般読者の胸の中には、折りかえして、では何故、現代の文学愛好者の大多数がそういう自他ともに低めるような情けない末技的興味にひき込まれてしまっているのであるかという反問が生じる。 明治以来今日までの七十年間、日本のブルジ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫