・・・旧紙幣の通用するうちに、式をあげた方がいいだろうと説き伏せると、彼も漸く納得して、二月の末日、やっと式ということになった。 仲人の私は花嫁側と一緒に式場で待っていたが、約束の時間が二時間たっても、彼は顔を見せない。 私はしびれを切ら・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・これは四月末日までの、私たちの生活費の全部である。これを失えば、私は困るのである。ごはんをたべるぶんには、いま手許にお金が無くても、それは米屋、酒屋と話合った上で、どうにかやりくりして、そんなに困ることもあるまいけれど、煙草、郵便代、諸雑費・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ ところが、一九四五年一月末日神田と本郷の一部が真先に空襲をうけた。それから五月下旬まで、毎月一回、きまって本郷の各部が爆撃をうけつづけた。丹念に、のこった部分につづく地域から被害をうけて、レイダアと云われる機械の精密さをおどろかされた・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫