・・・ときとしては末梢的些末事と取り組んで飽くことを知らない。人生を全体として把握し、生活の原理と法則とを求めるものは倫理学に行くべきだ。これは文芸に求めるのが筋ちがいだからだ。もとより倫理学は学としての約束上概念を媒介としなければならぬ。文芸の・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そうしていっそう難儀なことはその根本的な無知を自覚しないでほんとうはわからないことをわかったつもりになったりあるいは第二次以下の末梢的因子を第一次の因子と誤認したりして途方もない間違った施設方策をもって世の中に横車を押そうとするもののあるこ・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・それで一見いわゆるはなはだしく末梢的な知識の煩瑣な解説でも、その書き方とまたそれを読む人の読み方によっては、その末梢的問題を包含する科学の大部門の概観が読者の眼界の地平線上におぼろげにでもわき上がることは可能でありまたしばしば実現する事実で・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 有機体ではいかなる末梢といえども中枢機関と有機的に連関しているので、末梢の変化から根原の変化を推測することのできる場合も少なくないはずである。末梢的と言ってもうっかり見過ごせない。 有機体の中にその有機系と全然無関係な細胞組織が何・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ところが桜が咲く時分になるとこの血液がからだの外郭と末梢のほうへ出払ってしまって、急に頭の中が萎縮してしまうような気がする。実際脳の灰白質を養う血管の中の圧力がどれだけ減るのかあるいは増すのかわからないが、ともかくもそんな気がする。そうして・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・最高の機械と技術とが駆使されていることは明らかなのだが、ヴォルフの製作の一つ一つの態度は、それらの道具を駆使する感興というような末梢から遙にぬきんでている。私を一番感動させたのは、制作者としてヴォルフがもっているひろやかで瑞々しく複雑な情緒・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・ なるほど、女のひとはトレーサアなどやっても、非常に末梢的に使われて、朝出勤するときょうはどこそこで何をやってくれ。そして、明日はと全く別なところへ移動させられ、技術は只迅いとか仕上げが奇麗とかいうところでだけ評価され、決してそのひとが・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・政治的な成長ということは、必ずしも隣組選出の区議を当選させるために主婦たちが活躍するというような末梢のことではあるまい。 大きく日本の世界におけるありようを知って、自分の愛する家族たちの動き、浮沈について利害をこえた理解同情をも抱ける婦・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 画の新しさ・主題・手法・色彩の溌溂として新鮮な感覚というものは、然し、末梢的な狙いで、ただ色よりも線でのデッサンを主にするような試みだけで獲得しうるものでないであろう。私は、いろいろの点で、帝展の数百点の画からは、かくあってはならぬ、・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・ 日本服というものを、末梢的にこねくって不徹底なみっともないものにするよりも、働くための服装は思い切って東西を問わないその人々の仕事にふさわしいものに変化させて行ったらいいのだろうと思う。〔一九四一年四月〕・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫