・・・元村長をした人の後家のところでは一晩泊って、綿入れの着物と毛糸で編んだ頭巾とを貰った。古びた信玄袋を振って、出かけてゆく姿を、仙二は嫌悪と哀みと半ばした気持で見た。「ほ、婆さま真剣だ。何か呉れそうなところは一軒あまさずっていう形恰だ」・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・その間を「狡そうで臆病な村長が、杖をふりながら動きまわり」読むような調子で、「ああ、何という乱暴だ! おい、百姓たち、いけないねえ!」と云っている、それらの姿は、「私の大学」中最も読者の心に深く刻み込まれる描写の一つである。 署・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・名主はなくなって村長となり、藩はなくなって県郡となった。けれども、それぞれの土地に居ついて来た農民は、どういう関係で日本の新しい経済機構に結ばれたかといえば、大部分はやはり昔ながらの小作百姓で、耕作の方法も、年貢を現物で払うということも、一・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫