・・・愛する日本が、また再び作家にかたことを云わせるような非条理な強権に決して屈することのないように。言論の自由ということは、どんなに人間の社会生活にとって基本的に主張されなければならない重大な権利であるかということについて忘れないために。 ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・結婚にからむ親たちとの相剋も非条理に思えた。二十歳の女の人生をその習慣や偏見のために封鎖しがちな中流的環境から脱出するつもりで行った結婚から、伸子は再度の脱出をしなければならなかった。世間のしきたりから云えば十分にわがままに暮しているはずの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・このときに到っても、やはり葉子の中にあって彼女を一層混乱させ、非条理に陥らせている封建的な道徳感への屈伏を作者は抉り出すことに成功してはいないのである。 葉子の恋愛の描写の中に感銘を与えられることがもう一つある。それは作者が、恋愛という・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・始めのうちは、条理が立って居たのが次第に怪しくなって、仕舞いには、何を云おうとするのか、文句が断れぎれで、訳のわからないことを口走るようになった。 赤い洋服を着た小さい人は、気が違って仕舞ったのだ。 場面は病院のような処となり、学校・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・ よりよく生きたいという人間本来の念願を私たちのものとして生活の中に実現してゆくためには、目前の不合理そして又自分たちの非条理で失望し引き下ってしまわないだけの、大きくつよい息が必要である。〔一九四一年十一月〕・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・という思いを、屈托した不平の呟きとせずこの際、それを条理をもって整理して見てはどうだろう。それが必然だからこそ、自分たちでやって行くに適当した社会的な方法を見出さなければならないという一歩の前進がそんなに不可能なことであろうか。 食物の・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・戦争が不条理に拡げられ、欺瞞がひどくなるにつれて、日本じゅうの理性を沈黙させ、それをないものにしていた治安維持法が撤廃された記念すべき日も、近くふたたびめぐり来ようとしている。 わたくしたちは、こうして営々と三百六十五日を生きとおして今・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・すべての社会現象の全体の関係を人民生活の前に開いてみせず、任意な現象だけをきりとって、さまざまの粉飾でしめした方法こそ、天皇の神聖をかざした軍部のやりかたそのものであった。条理ある社会関係の総体の見とおしを許さず、きれぎれの認識で混乱させた・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・人間の精神の自然な合理の力を知らないで、どうして子供たちに、条理の明らかなものごとの美しさを語ることが出来るだろう。 子供の読みものを書く大人の感情のうちにある幾通りかの感傷を、これからのその分野で活動しようとする人々は、真面目に考察し・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・かつて卒業生一同の穢点と考えられたのも、その非条理そのものが常識の一部分であったからこそである。一人一人の罪がどこにあるだろう。しかし、やはりわたしたち一人一人に責任はある。なぜなら、社会の歴史の進歩は、わたしたちめいめいの前進の総和である・・・ 宮本百合子 「歳月」
出典:青空文庫