・・・ 勿論貉は、神武東征の昔から、日本の山野に棲んでいた。そうして、それが、紀元千二百八十八年になって、始めて人を化かすようになった。――こう云うと、一見甚だ唐突の観があるように思われるかも知れない。が、それは恐らく、こんな事から始まったの・・・ 芥川竜之介 「貉」
・・・中でも早吸の瀬戸などは神武天皇が東征の時に御通りになったというので、歴史で名高くその名も潮流の早い事を示していて大変に面白い名でありますが、今ではただ豊後海峡と呼ばれています。伊予の西の端に指のように突き出た佐田岬半島と豊後の佐賀の関半島と・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・日本武尊東征の途中の遭難とか、義経の大物浦の物語とかは果して颱風であったかどうか分らないから別として、日本書紀時代における遣唐使がしばしば颱風のために苦しめられたのは事実であるらしい。斉明天皇の御代に二艘の船に分乗して出掛けた一行が暴風に遭・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫