・・・ 味方は居ず、敵は遁げた、近くに往来はなしとすれば、これは如何でも死ぬに極っている。三日で済む苦しみを一週間に引延すだけの事なら、寧そ早く片付けた方が勝ではあるまいか? 隣のの側に銃もある、而も英吉利製の尤物と見える。一寸手を延すだけの世話・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ そんな愚かな考えの者は、覿面に世の中から手ひどいしっぺ返しを喰うに極っているから」「いや僕もけっしてその、経済関係を無視するとかそんな大それた気持からではないのだがね、またそれを無視するほどの元気な気持であれば、きっと僕にも何かできる・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・の間、即ち循環故障であって、いくら呑んでも尿には成らず浮腫になるばかりだから、一日に三合より四合以上呑んではよくないから、水薬の中へ利尿剤を調合して置こうと言って、尿の検査を二回もしましたが、蛋白質は極く少いのです。利尿剤の水薬を呑み出して・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・そいつが毎夜極った時刻に溪から湯へ漬かりに来るのである。プフウ! なんという馬鹿げた空想をしたもんだろう。しかし私はそいつが、別にあたりを見廻すというのでもなく、いかにも毎夜のことのように陰鬱な表情で溪からはいって来る姿に、ふと私が隣の湯を・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・竹内はそれと気がつき、「ウン貴様は未だこの方を御存知ないだろう、紹介しましょう、この方は上村君と言って北海道炭鉱会社の社員の方です、上村君、この方は僕の極く旧い朋友で岡本君……」 と未だ言い了らぬに上村と呼ばれし紳士は快活な調子で・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・日蓮はここにおいて決するところあり、自ら進んで、積極的に十一通の檄文を書いて、幕府の要路及び代表的宗教家に送って、正々堂々と、公庁が対決的討論をなさんことを申しいどんだ。 これは憂国の至情黙視しておられなかったのであるが、また彼の性格の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・しかし、それは極く少数だった。たいていは、反感らしい反感を口に表わさず、別の理由で金を出してもこちらの要求に応じようとはしなかった。蹄鉄の釘がゆるんでいるとか、馬が風邪を引いているとか。けれども、相手の心根を読んで掛引をすることばかりを考え・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ですから私の就学した塾なども矢張り其の古風の塾で、特に先生は別に収入の途が有って立派に生活して行かるる仁であったものですから、猶更寛大極まったものでした。紹介者に連れて行って貰って、些少の束修――金員でも品物でもを献納して、そして叩頭して御・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ されど、天命の寿命をまっとうして、疾病もなく、負傷もせず、老衰の極、油つきて火の滅するごとく、自然に死に帰すということは、その実はなはだ困難のことである。なんとなれば、これがためには、すべての疾病をふせぎ、すべての災禍をさけるべき完全・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・い下心、いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もう掌のうちと単騎馳せ向いたるがさて行義よくては成りがたいがこの辺の辻占淡路島通う千鳥の幾夜となく音ずるるにあなたのお手はと逆寄せの当坐の謎俊雄は至極御同意なれど経験なければまだまだ心怯れ・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫