・・・資本主義の必然的な矛盾はインテリゲンチアをも経済的に窮乏におとし入れ、その広い部分が労働者化の過程をたどっているし、同時に、古い文化の涸渇と腐敗を見透し、自身の生存のためにも新しい生活と文化との建設の必要をますます自身の問題として感じるよう・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・目前の食糧問題という全くの公的課題を、忍耐ふかき日本の人民は、日に日に枯渇して来る各自のいとささやかな財布と、道徳的堕落を伴う要領、才覚によって、やりくっているのである。 日本が民主的自主的政治の能力を示して、世界に、自立的民族として存・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・全的人間性の登場の可能に対する観念そのものさえ蹂躙しつつ、階級社会の時々刻々の現実生活はどのようにわれわれをゆがめ、才能や天分を枯渇せしめているかという憤ろしい今日の実際を、ローゼンタールの生活と文学における性格の研究の論文はくっきりと抉り・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ ところが西洋歴史の時から、私の前に現れた千葉先生は、何処となく、その枯渇した状態とは異ったものを持って居られた。 大層すらりと均整の整った体躯、睫の長い、力ある大きな二つの眼、ゆっくりとつくろわず結ねられている髪や衣服のつけ方など・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・職業紹介所は更に最近労務資源枯渇の現状に鑑み、銃後女子勤労要員制度というのを編み出した。十四歳から四十五歳迄の女子に三ヵ月ずつ期間を区切って午前十時から午後三時迄日給六拾銭で工場の労働をさせる。もともと家庭婦人の動員を眼目にしているから托児・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・垣の上の女もとうとう思想が涸渇した。察するに、彼は思想の涸渇を感ずると共に失望の念を作すことを禁じ得なかったであろう。彼は経験上こんな雄弁を弄する度に、誰か相手になってくれる。少くも一言くらい何とか言ってくれる。そうすれば、水の流が石に触れ・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・たとえそのために人間性質のある点に関する興味が涸渇しようとも。私が他人を罵るのは畢竟自分を罵ることでした。他人の内に穢ないもののある事を見いだすのは、要するに自分の内にも同じもののある証拠に過ぎませんでした。五 あまりジメジ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫