・・・ 私どもは、何々という島では、兵士の何割が栄養失調で餓死したという報告を、やつれ果てた復員兵から告げられている。一方に、大小の戦争犯罪人としての将官が、リストされている。しかし、兵と共に飢えて死んだという将校が、何人私たちに知られている・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・餓死する人間も見たであろうし、その人たち自身、栄養失調で這って帰って来たかも知れない。何故そこから新しい文学が生れないのだろうか。歴史的な野蛮行為のなかにまきこまれて、苦悩し、ひそかに泣き、人間らしさを恋うた心が一つもなかった、とどうして云・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 誕生このかた不断の栄養失調のうちに辛うじて息づいて来た旧日本文学の精神は、全く非人間的な擅断と営利主義とによって導かれた自身の崩壊さえも、その事実の重大さにおいて自覚し得なかった。 新しい文学創造の源泉は決して器用な便乗の手際には・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・戸坂潤は、栄養失調から全身疥癬に苦しめられて命をおとした。ひろ子は、これらの話をきいたとき泣いた。重吉と自分とに与えられた愉悦に対して謙遜になった。これらの人々はどんなに生きたかったであろうか、と。 ひろ子は、実験用テーブルの前の円椅子・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫