・・・私はあの救助係の大きな石を鉄梃で動かすあたりから、あとは勝手に私の空想を書いていこうと思っていたのです。ところが次の日救助係がまるでちがった人になってしまい、泥岩の中からは空想よりももっと変なあしあとなどが出てきたのです。その半分書いた分だ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・第一それを云いだしたのは、剃刀を二梃しかもっていない、下手な床屋のリチキで、すこしもあてにならないのでした。けれどもあんまり小さい子供らは、毎日ちょうざめを見ようとして、そこへ出かけて行きました。いくらまじめに眺めていても、そんな巨きなちょ・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・ はっきりとした声で云ったので母親は身も心もかるくなったようにかけ下りて黄色いふくろに入った三味線を二梃もって来た。「何にしよう」 母親は指をなめながら云った。 長次はしきりと撥を持ちかえて居たけど、「はでなもん、なんか・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ナイチンゲールにとってクリミヤでの成果は彼女の経歴の有益な踏み石に過ぎず、それは世界を働かせる為の梃子台であった。クリミヤでの激労ですっかり健康を害してイギリスに着いた彼女は、心臓衰弱に襲われ、たえず気絶の発作と全身の衰弱に悩まされた。医師・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫