・・・ 大阪の五つの代表的な闇市場――梅田、天六、鶴橋、難波、上六、の闇市場を歩いている人人の口から洩れる言葉は、異口同音にこの一言である。 思えば、きょうこの頃の日本人は、猫も杓子もおきまりの紋切型文句を言い、しかも、その紋切型しか言わ・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ 電熱器を百台……? えっ? 何ですって? 梅田新道の事務所へ届けてくれ? もしもし、放送局へ掛けてるんですよ、こちらは……。えっ? 莫迦野郎? 何っ? 何が莫迦野郎だ?」 混線していた。「ああ、俺はいつも何々しようとした途端、必ず・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ 揺り動かされて、眼がさめると、梅田の終点だった。 原稿を送って再び阪急の構内へ戻って来ると、急に人影はまばらだった。さっきいた夕刊売りももういない。新吉は地下鉄の構内なら夕刊を売っているかも知れないと思い、階段を降りて行った。・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・ある日、梅田新道にある柳吉の店の前を通り掛ると、厚子を着た柳吉が丁稚相手に地方送りの荷造りを監督していた。耳に挟んだ筆をとると、さらさらと帖面の上を走らせ、やがて、それを口にくわえて算盤を弾くその姿がいかにもかいがいしく見えた。ふと視線が合・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 小沢はがっかりして、梅田の闇市場の中にある食堂へはいって行くと、ここにもまた大阪の憂鬱があった。 小沢は朝から――というより、昨夜から何も食べていなかった。 米を持っていなかったから宿屋では食事を出してくれなかったのだ。・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・昨夜僕は梅田先生の処から借りてきてから読みはじめたけれどおもしろうて止められない。僕はどうしても一冊買うのだ」といって嬉しくってたまらない風であった。 その後桂はついに西国立志編を一冊買い求めたが、その本というは粗末至極な洋綴で、一度読・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
出典:青空文庫