・・・どうせ一度は樗の梢に、懸ける首と思っていますから、どうか極刑に遇わせて下さい。(昂然清水寺に来れる女の懺悔 ――その紺の水干を着た男は、わたしを手ごめにしてしまうと、縛られた夫を眺めながら、嘲るように笑いました。夫はどんなに・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・ 絞罪より、斬首より、その極刑をお撰びなさるが宜しい。 途中、田畝道で自殺をしますまでも、私は、しかしながらお従い申さねばなりますまい。 あるいは、革鞄をお切りなさるか、お裂きになるか。…… すべて、いささかも御斟酌に及びま・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・息づまりそうだった。極刑に処せられることなしに兵営から逃出し得るならば、彼は、一分間と雖も我慢していたくはなかった。――僅かの間でもいい、兵営の外に出たい、情味のある家庭をのぞきたい。そういう慾求を持って、彼は、雪の坂道を攀じ登った。 ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・私などは、無実の罪で法廷に立たせられても、その罪に数十倍するくらいの、極刑に価いするくらいの罪状を、検事にせつかれて、止むなく告白するかも知れない。もとより無形の犯罪であるが、そのときの私の陳述が、あまりにも微に入り細をうがって、いかにも真・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・もし自供した人々が情状酌量されて、真実を主張して闘った者が極刑を課せられるならば止むを得ない。しかし人間はそこまで悪くはできていないだろう。何時かは清水はやっていないといってくれるだろう。私は泉川検事に最後に血涙をしぼって云った。」「二十三・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫