・・・人を殺してまで物をとるということは、私達の常識では物とりの極限であった。シロウトの強盗は昔からこわいといわれてきたのは、ただでさえおびえて人の家へ忍びこんだ者が相手に眼をさまされて、こわさで夢中になって相手を殺傷するからであった。 とこ・・・ 宮本百合子 「戦争でこわされた人間性」
・・・ けれども、結果は悪く、三年同棲する間に、女性がその良人に対して持ち得る極限の侮蔑と、恥と憤とを味って離婚してしまいました。 生活の安全、幸福と云うものは、只、金でだけ保障されると思って媒妁人は、心から彼女の為を計って、却って、富の・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・人間らしさを極限まではぎとられた。その痛苦から屈従させようと試みられた。ひろ子にしろ、つかまる度に、女の看守長にまで云われることは、重吉の妻になっているな、ということだった。一層軟かく重吉の膝に頭を埋めながら、ひろ子は、「げんまん」・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ナイチンゲールに役立とうとして仕事をはじめたこれらの人々は、やがて真剣にその能力と忍耐との極限まで彼女のためにはかたむけつくさなければならないことを知った。寝台の上に真蒼になって息をきらしながら、なお仕事を捨てないフロレンスを見て彼女が骨身・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・モラトリアムと生活費値上りの恐ろしいばかりの食いちがいによって、人民生活は極限へ追いつめられようとしているのに、政府は、まだ、軍需産業補償のことをいっている。封鎖した人民の金で、もう十分儲けた軍需成金を猶この上にも補償して、その裾わけにあず・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・特殊の色彩を強めるのであるけれども、同時にまた人性の進化に参与する所も深くなる。特殊の極限はやがて普通となるのである。 個性の完成、自己の実現はいたずらに我に執する所に行われるものではない。偉人の自己は強く人性的の色を帯びている。我の殻・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫