・・・ 四十余年間の歴史を見ると、昔は理想から出立した教育が、今は事実から出発する教育に変化しつつあるのであります、事実から出発する方は、理想はあるけれども実行は出来ぬ、概念的の精神に依って人は成立する者でない、人間は表裏のあるものであるとし・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・それは自己自身によって自己自身を限定する真実在の原理として、何処までも深く概念的に把握せられるものでなければならない。これを実体化する時、それまでである、死んだ概念に過ぎない。私は古来、哲学はかかる立場において始まり、かかる立場において今日・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・単に概念的論理的でない。直感的に訴えるものがあるのである。パスカルの語を借りていえば、単に l'esprit de gomtrie[幾何学の精神]でなくて、l'esprit de finesse[繊細の精神]というものがあると思う。フランス・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・だが、無頼漢共を量る時には、一年の概念的な数字に過ぎなかった。その一年の間に、人間の生活が含まれていると云う事は考えられなかった。それは自分には関係のない一年であった。その一年の間に、他人の生活の何千年かを蛹にしてしまう職業に携っている、そ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・著者は、谷崎潤一郎が初期には具体的感覚的文章を書いたが最近は抽象的、概念的文章になったことを指し、偉大なゲーテもさような道ゆきをたどったといっている。六十八歳で歿したゴーリキイが晩年においては、最も概念的であるべき論説においてさえ、ますます・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・新しい日本というものの目安からごく概念的に一方的に下される過去の文学への批判の性質を噛みわけて文学の問題として摂取成長してゆくより先、作家というものの文化的存在の可能不可能、ひいてはたつきの問題へ性急に迫って現れて、そこで作品とは切りはなれ・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・を批評して、概念的に書かれたもので大していい作品でない、小林氏ほどの才能のある作家がこのような作品を書くようにし、白テロの犠牲とした作家同盟は考えるべきであるというようなことを書いている。「地区の人々」は、たしかに終りに行けば行くほ・・・ 宮本百合子 「同志小林多喜二の業績」
・・・教育者などが或る時陥りがちな、概念的類推にのみよらず、自己の道程を、全く自己に即して内観することの必要は、この点でも明かにされるのです。 私は、今丁度、研究者の使う用語を以てすれば、青年期の末端、成年期に入ろうとするところにあります。文・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・もとより僕は画家が想念の表現に努めることを排するのではないが、その想念がかくのごとく幼稚で概念的で、何らの深い感動や直観に根ざしていない以上は、むしろ持たぬ方がいいと思う。椿貞雄氏の『石橋のある景色』や、片多徳郎氏の『郊外にて』や、山脇信徳・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ 彼らは概念的であることを非常にきらう。そうして彼ら自身の感じ方がすでに概念的であることには気づかない。二 私はここで「自然」の語義を限定しておく必要を感ずる。ここに用いる「自然」は「人生」と対立せしめた意味の、あるいは・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫