・・・ 陳は麦藁帽の庇へ手をやると、吉井が鳥打帽を脱ぐのには眼もかけず、砂利を敷いた構外へ大股に歩み出した。その容子が余り無遠慮すぎたせいか、吉井は陳の後姿を見送ったなり、ちょいと両肩を聳やかせた。が、すぐまた気にも止めないように、軽快な口笛・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・ 停車場まで来ると汽車はいま出たばかりで、次の田端止まりまでは一時間も待たなければならなかった。構外のWCへ行ってそこの低い柵越しに見ると、ちょうどその向こう側に一台の荷物車があって人夫が二人その上にあがって材木などを積み込んでいた。右・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ ステーション構外の物売店見物。 バタがうんとある。 三つ十五カペイキでトマトを買った。てのひらにのっけて雪道を歩くとそれは烏瓜のようだった。実際美味くなかった。ナルザン鉱泉の空瓶をもってって牛乳を買う50к。ゴム製尻あてのよう・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫