・・・引っ張るということに対しては、猫の耳は奇妙な構造を持っている。というのは、一度引っ張られて破れたような痕跡が、どの猫の耳にもあるのである。その破れた箇所には、また巧妙な補片が当っていて、まったくそれは、創造説を信じる人にとっても進化論を信じ・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・「其処で田園の中央に家がある、構造は極めて粗末だが一見米国風に出来ている、新英洲殖民地時代そのままという風に出来ている、屋根がこう急勾配になって物々しい煙突が横の方に一ツ。窓を幾個附けたものかと僕は非常に気を揉んだことがあったッけ……」・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ そして構造の大きな農家らしき家の前に来ると、庭先で「左様なら」と挨拶して此方へ来る女がある、その声が如何にもお正に似ているように思われ、つい立ちどまって居ると、往来へ出て月の光を正面に向けた顔は確かにお正である。「お正さん」大友は・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・ 倫理学の根本問題と倫理学史とを学ぶときわれわれは人間存在というものの精神的、理性的構造に神秘の感を抱くとともに、その社会的共同態の生活事実の人間と起源を同じくする制約性を承認せずにはいられない。それとともに人間生活の本能的刺激、生活資・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・現実主義者が恋愛は性慾と生殖作用の上部構造にすぎないといっても、精神的憧憬の深いイデアリストは恋愛が性慾をこえた側面を持ち、むしろそのこえんとする悩みにこそ、恋愛の秘義があると主張してやまないであろう。 青年学生はいずれ関心事たる恋愛に・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・しかし生の真理の重要な部分はむしろ非合理的の構造を持ち、それを把握するためにはそれに対応する直観的英知によらねばならぬ。さらに生の真理の最深部は啓示によるのでないならとらえることができぬ。否それはわれわれがとらえるのでなく、とらえられるので・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ と、彼は、それと同じことを、鮮人部落の地理や、家の格好や、その内部の構造や、美しい娘のことなどを、執拗に憲兵隊で曹長に訊ねられたことを思い出した。「女というものは恐ろしいもんだよ。そいつはいくらでも金を吸い取るからな。」 松本・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・家の構造も変った。店の飾り付も変った。そこここに高く聳ゆる宏大な建築物は、壮麗で、斬新で、燻んだ従来の形式を圧倒して立つように見えた。何もかも進もうとしている。動揺している。活気に溢れている。新しいものが旧いものに代ろうとしている。八月の日・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・あなたがこれまで東京に永くいらっしゃったと言っても、やはりこの土地の生れなのですから、このへんの農家の構造はご存じでしょう。土間へはいると、左手は馬小屋で、右手は居間と台所兼用の板敷の部屋で大きい炉なんかあって、まあ、圭吾の家もだいたいあれ・・・ 太宰治 「嘘」
・・・その他は、四国にも九州にもいまのところ見当らぬそうで、箱根サンショウウオというのが関東地方に棲息して居りますけれども、あれはまた全く違った構造を持っているもので、せいぜい蠑いもりくらいの大きさでありまして、それ以上は大きくなりませぬ。日本の・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
出典:青空文庫