・・・上野の図書館には、明治の前半期に樋口一葉がよく通った。一葉日記に、ここは屡々出て来る。その頃、おそらく一人か二人しかいなかったであろう女子の閲覧人は、どういうところで読んだり勉強したりしていたのであったろうか。私の記憶にあるはじめの婦人閲覧・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ ところで、近代になってからの婦人作家の立場、婦人の文学はどういうものであったか。樋口一葉をとって見ましょう。一葉は明治の初め、自然主義が起ろうとする頃、それに対抗して活溌な文芸批評などを行っていた森鴎外を先頭とし、若い島崎藤村その他に・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・さらに、樋口一葉がそれに向って彼女の小説の中で非組織的な小市民的反抗を自然発生的に示した、明治のブルジョア官僚=官員はほとんどことごとく階級層においては革命的農民と対立した地主的勢力の取巻き志士団のくずれであったこと、故にひろく衆をあつめる・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ 樋口一葉の「たけくらべ」は吉原という独特な環境にある少年少女の稚い恋を描いた近代古典として有名であるし、まぎれもなく明治二十年末のロマンティシズムの生んだ文学の一つの高峯である。けれど、そこにある美は全く感性的な情趣的なもので、主題は・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・ 樋口一葉の小説は、今なお多くの人々に愛せられているし、明治文学を眺め渡した時、婦人作家として彼女くらい完成した技術を持っていた人はなかった。しかし日清戦争前後に生活した一葉が描いている婦人の世界というものはどういうものであったろう。有・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫