・・・日光の廟門を模擬した博覧会場の建築物にも均しい。菊人形の趣味に一層の俗悪を加えたものである。斯くの如き傾向はいつの時に其の源を発したか。混沌たる明治文明の赴くところは大正年間十五年の星霜を経由して遂にこの風俗を現出するに至ったものと看るより・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・『三四郎』は拙作かも知れないが、模擬踏襲の作ではない。 花袋君は六年前にカッツェンステッヒを翻訳せられて、翻訳の当時は非常に感服せられたが、今日から見ると、作為の痕迹ばかりで、全篇作者の拵えものに過ぎないと貶せられた。褒貶は固より花袋君・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・足らぬか、もしくは、おれはおれだから是非一派を立てて見せると自己の特色に自信をおくか、または世間の注意を惹くには何か異様な武者ぶりを見せないと効力が少ないとか、いろいろの動機から起るだろうが、要するに模擬者でもなければ、同圏内の競争者でもな・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・あの中世紀の魔教サバトの徒は、耶蘇とキリスト教とを冒涜する目的から、故意に模擬の十字架を立てて裸女を架け、或は幼児を架けて殺戮した。反キリストの詩人ニイチェの意味に於て、Ecce homo がまた同じく、キリスト教への魔教的冒涜を指示してゐ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
出典:青空文庫