・・・ 知識に権威を感ずる人々は、ある種の虚偽には満足する人々であります。説明や、解釈の仕方でものゝ善悪がいろ/\に変る筈がないからだ。よりいゝということはより真実であるということで、より価値あるということは、より人間生活を営むに為めになると・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・ 新人生建設のために、私達は、新芸術の使命と権威を考えなくてはならない。 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・相懸り法は当時東京方棋師が実戦的にも理論的にも一応の完成を示した平手将棋の定跡として、最高権威のものであったが、現在はもはやこの相懸り定跡は流行せず、若手棋師は相懸り以外の戦法の発見に、絶えず努力して、対局のたびに新手を応用している。が、六・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・予言者とは法を身に体現した自覚をもって、時代に向かって権威を帯びて呼びかけ、価値の変革を要求する者である。予言者には宇宙の真理とひとつになったという宗教的霊覚がなければならぬのは勿論であるが、さらに特に己れの生きている時代相への痛切な関心と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ヨーロッパの誰某はかくいっているという引用の豊富が学や、思想を権威づける第一のものである習慣は改正されなければならぬのである。 この習慣の背後には、一般に、書物至上主義でないまでも、過度の書物依頼主義が横たわっている。この習慣は信じられ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 曹長は、刑法学者では誰れが権威があるとか、そういう文官試験に関係した話を途中でよして、便所へ行くものゝのように扉の外へ出た。 彼は、老人の息がかゝらないように、出来るだけ腰掛の端の方へ坐り直した。彼は、癇高い語をつゞけている通訳と・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 与二は政元の下で先度の功に因りて大に威を振ったが、兄を討ったので世の用いも悪く、三好筑前守はまた六郎の補佐の臣として六郎の権威と利益とのためには与二の思うがままにもさせず振舞うので、与二は面白くなくなった。 そこで与二は竹田源七、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・木戸木戸の権威を保ち、町の騒動や危険事故を防いで安寧を得せしむる必要上から、警察官的権能をもそれに持たせた。民事訴訟の紛紜、及び余り重大では無い、武士と武士との間に起ったので無い刑事の裁断の権能をもそれに持たせた。公辺からの租税夫役等の賦課・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・虚無思想の中心は、ツルゲネフの作が定義するところによれば、あらゆるものを信ぜず、あらゆる権威に抗争する点に存する。しかしこの思想を一の人生観として取り上げる時、そこに当然消極か積極かという問題が起こり来たらざるを得ないことは、すでにヨーロッ・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・経験も何もない野次馬たちが、どうもあの作家には飛躍が無い、十年一日の如しだね、なんて生意気な事を言っていますが、その十年一日が、どれだけの修業に依って持ち堪えられているものかまるでご存じがないのです。権威ある批評をしようと思ったら、まず、ご・・・ 太宰治 「炎天汗談」
出典:青空文庫