・・・の如く近代国家としての日本は独特な発展の過程をとり所謂開化期の文化の自由民権的傾向というものは明治二十三年国会が開かれると同時に一種の反動期に入り、今日とはその質を異にするが、官僚「官員さん」の横行時代を現出した。日清、日露の両戦争の後には・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・て、彼が最も理想とする完全な個人主義の花盛りにまでは、人類として、歴史的にまだ多くの忍耐と時間とを要するとしても、既にその可能は見とおされている新社会の民衆の個性の発展の本質的意味を、明瞭に描き出し、横行している強権に対立するものとして示す・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・はいわゆる文壇の内幕をあばき、私行を改め、代作横行を暴露し、それぞれの作家を本名で槍玉にあげたことを、文学的意味ではなく、文壇的意味において物議をかもし出したのであった。 ある作家、編輯者はこの作に対して公に龍胆寺に挑戦をしたり、雑誌の・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ あきらかに、いまの日本に横行している、笑わされたあとでは、気分がわるくなるくすぐりの調子である。崇仁親王という名と、その人のストリップ的なこのようなくすぐりと。この結び合わせこそ、「とんでもハップン」の隷属日本の風俗とたいこもち精神を・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・さも悪者らしく、巻煙草の横くわえで、のっそりのっそり両手をパンツの衣嚢に肩をそびやかして横行するところから、あの両肱をぐいと持ち上げる憎さげなシュラッギングまで。堪らず私を笑わせたのは、そんな悪漢まがいの風体をしながら、肩つきにしろ、体つき・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・相も変らず紙屑のようなエログロ出版が横行していること、文学者に対する税がお話にならない高率で、殆ど収入の八五パーセントもとられること、その上政府は文化財である故人の著作権に対して勝手な収入予想をして税をかけようとしていること、それらはただ文・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・今日軍需景気で絵画の偽作が横行する。それも主として日本画の贋物が多いということ、東京郊外の畑や藪が分譲となっておどろくばかりの売れ行を示しているということ。市内のデパートで百円以上の反物が飾窓に出されて数時間のうちに売れてしまうということ、・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・新たな恋愛価値の創始、人格の飛躍が、一方、色情狂めいた性的好奇心の横行とともに、今日の社会には到るところに叫ばれていると思うのである。 けれども、翻ってそれを聞きその影響を受けようとする大多数の男性女性は、事実に於て今日如何なる生活を営・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・いかなる封建性、きたないブルジョア・エロチシズム横行の中にあっても、その蒙昧さによって一応母の愛はその偽善も、バクロされないのである。 自分は今こそ「妻・母」として Full にものを云い得る。愛する男の美しさについて、その皮膚のすみず・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・さらにまたかの卑猥なる言語を弄して横行する一群を見る時、吾人は一高校風の前途を危ぶまざるを得ない。校風の暗黒面にみなぎる悪思潮は門鑑制度、上草履制度の無視ではない、尊き心霊に対する肉的侮辱である。吾人は口に豪壮を語る輩が女々しく肉に降服せる・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫