・・・それが横這いに歩いていると、握り飯が一つ落ちていた。握り飯は彼の好物だった。彼は大きい鋏の先にこの獲物を拾い上げた。すると高い柿の木の梢に虱を取っていた猿が一匹、――その先は話す必要はあるまい。 とにかく猿と戦ったが最後、蟹は必ず天下の・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・犬はさきに立って崖を横這いに走ったりざぶんと水にかけ込んだり淵ののろのろした気味の悪いとこをもう一生けん命に泳いでやっと向うの岩にのぼるとからだをぶるぶるっとして毛をたてて水をふるい落しそれから鼻をしかめて主人の来るのを待っている。小十郎は・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・なぜ松本氏が拒絶したかといえば「蟹の横這い」が厭だったというのです。天皇がまっすぐに向っているのに、同じ人間の議員は体を横にして横這い歩きをして出たり入ったりする。自分は人間だから厭だ、人間は元来まっすぐに歩くものなのだから御免蒙るといった・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫