「歩哨に立って大陸の夜空を仰いでいるとゆくりなくも四ッ橋のプラネタリュウムを想いだした……」と戦地の友人から便りがあったので、周章てて四ッ橋畔の電気科学館へ行き六階の劇場ではじめてプラネタリュウムを見た。 感激した。陶酔・・・ 織田作之助 「星の劇場」
・・・ 日本橋橋畔のへリオトロープは単なる子供のいたずらであったであろうが、同じようなのでただの悪戯ではない場合があり得る。例えば某ビルディングの某会社のある窓の内に執務している甲某にその友人乙某が百メートルも先の街上から何かしらある信号を送・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ とある河の橋畔に出ると大きなビルディングが両岸に聳え立って、そのあるものには窓という窓に明るい光が映っている。車が方向をかえるたびに、そういう建物が真闇い空にぐるぐる廻転するように見えた。何十年も昔、世界のどこかの果のどこかの都市で、・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
隅田川の両岸は、千住から永代の橋畔に至るまで、今はいずこも散策の興を催すには適しなくなった。やむことをえず、わたくしはこれに代るところを荒川放水路の堤に求めて、折々杖を曳くのである。 荒川放水路は明治四十三年の八月、都下に未曾有の・・・ 永井荷風 「放水路」
出典:青空文庫