・・・ 人間の自由意志と称するものは、有限少数な要素の決定的古典的な物理的機巧では説明される見込みのないものであるが、非常に多数な要素から成り立つ統計的偶然的体系によって説明される可能性はあるであろう。そういう説明が可能となった暁には、この宇・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・この微妙な反応機巧は弦と弓とが一つの有機的な全系統を形成していて、そうして外部からわがままな無理押しの加わらない事が緊要である。しかし弓の毛にも多少のむらがあるのみならず、弓の根もとに近いほうと先端に近いほうとではいろいろの関係がちがうから・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・ この場合に油膜の存在と摩擦の関係が明らかになったとしても、この場合の摩擦によって金だらいの規則正しい振動の誘発される機巧についてはまだよくわからないことがかなりに多く伏在しているのである。クラドニの実験や、またヴァイオリンの場合に松や・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・そうしてそれは人類の保存と人間社会の円滑な運転に必須な機巧の一部をなすものかもしれない。 こういうふうに考えて来ると世事の交渉を回避する学者や、義理の拘束から逃走する芸術家を営巣繁殖期に入った鳥の類だと思って、いくぶんの寛恕をもってこれ・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・この一夕の偶然の観察が動機となってだんだんこの藤豆のはじける機巧を研究してみると、実に驚くべき事実が続々と発見されるのである。しかしこれらの事実については他日適当な機会に適当な場所で報告したいと思う。 それはとにかく、このように植物界の・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・むしろただそのままにもう少し放置して自然の機巧を傍観したほうがよかったように思われて来たのである。簔虫にはどうする事もできないこの蜘蛛にも、また相当の敵があるに相違ない。「昆虫の生活」という書物を読んだ時に、地蜂のあるものが蜘蛛を攻撃して、・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・しかしまた人間の言語というものがあらゆる音響現象のうちで最も精妙を極めた機巧を具備したものだという事を意味するかもしれない。音楽の方はかなりまで好い加減に色々に変化させても、やはり同じものとして認め得られるが、人間の言語はそれがただほんのご・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・ このような機巧によって運ばれる連句の進行はたしかにフロイドの考えたような夢の進行に似ているのである。しかし夢の場合はそれが各個人に固有なものであって必ずしもなんらの普遍性をもたなくてもよい。しかし連句においては甲の夢と乙の夢との共通点・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫