・・・そして彼女の腹違いの妹のシルヴィが、生粋のパリの市民で――プロレタリアートで、イリュージョンを持たず、機智的で実務家で、恋愛と結婚とをはっきり区別し、「そりゃ恋人には危っかしくたって面白い人がいいけど、良人には、一寸退屈だって永持ちのする確・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・代女性の魅力の一つとして云われているが、活々と巧まない巧みにみちた話術ということからすれば、やっぱり、自然に、あらァ困った、私まるでだらしないのよ、と自分も笑いひとも笑いながらの品評が、おのずからなる機智にもみちている。 映画俳優のすき・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・が、マルクス夫妻の不屈な生活力と機智とは、この生活のなかから汲みとられるだけのよろこびをくみあげた。マルクスの思い出を書いている総ての人々が、なんと忘れがたい楽しさをもって気候のよい日曜日の大散歩の面白さを描いているだろう。『子供とマルクス・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・普通の人間の忍べないと思うような辛苦をよく耐えたり、機智を働かして窮地を脱したり、その点では人並以上の生活の力を発揮しているわけですが、そういう立志伝を読むと、多くの場合私たちの心には、何か一筋のものたりない感情がのこされるのは何故でしょう・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 思わず――その体の持主が私共だということ、それに利殖の本を結びつけた機智の面白さ――笑ってしまう滑稽さがあるが、このユーモアには何処やら淋しさがこもっているようではないか。小説集『光子』の中に集められている短篇でよいと思ったのが沢山あ・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・肉体小説、中間文学に対する彼のもの言いは、非常に機智的であった。否定するかとみれば、一部の肯定もあり、さりながら単純な肯定一本で貫かれているという見解でもなかった。伊藤整を、そのように複雑なもの云いにさせたのは何であったろう。彼にも、過去の・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・れに対して、いつの時代にも生存した特別に心情の活溌なある種の人々は、皮肉に人生のありのままを感じ観察していて、例えばイタリーのボッカチオという詩人は坊主くさくかためた天国地獄の絵図を、きわめてリアルに機智的に諷刺し、破壊しようとしている。「・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・と結び、それによって逆効果をひき起し、ある機智的な鋭さで、閃光のように作家としての良心の敏さ、芸術境の独自性を全篇の内部に照りかえそうと試みられそうであったかもしれない。ところが、「父母」全篇を通じての一番普通の人間はわかりよいこの文句には・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・主婦たちの機智と愛とは一層台所での活躍を求められる。 人間はあらゆる生きものの中で一番何でも食べる能力をもっている。決して悲観に及ばない。けれども、科学的な知識は益々大切である。難関をのりこす精神力も、肉体が土台である。 ・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・は金はなくても銘々が好むところを発揮して営んでゆく家庭の楽園が、空想的にまで主張されており、従来の映画の中では、破壊者の役割に廻っていたお金持ちの事業家などでもあの映画の中では、その過程の楽園の喜びと機智に負けて譲歩するハピイエンドです。あ・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
出典:青空文庫