・・・ただ企望する所は、仮令いその子を学校に入るるにもせよ、あるいは自宅にて教うるにもせよ、家の都合次第、今時の勢いにては才学に欠点なき父母も少なからん、あるいは家に教師を雇うべき財ある者も少なからんことなれば、やはり一時の姑息にて、よき学校を撰・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・然るに垢抜けのした精美された心持ちで考えると、自分の児は可愛いには違いないが、欠点も仲々ある、どうしても他所の児の方が可い、併し可愛いとなる。これと同じ事で、文学にしがみ付いて、其でなきゃ夜も日も明けぬと云うな、真に文学を愛するもんじゃない・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・殊にその豪傑志士を気取る処は俗受けのする処であってその実その紀行の大欠点である。某の東北徒歩旅行は始めよりこの徒歩旅行と両々相対して載せられた者であったが、その文章は全く幼稚で別に評するほどのものではなかった。独り楽天の文は既に老熟の境に達・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・しかもその欠点を挙げて「その集を閲するに大かた解しがたき句のみにてよきと思う句はまれまれなり」といい「百千の句のうちにてめでたしと聞ゆるは二十句にたらず覚ゆ」と評せり。自己が唯一の俳人と崇めたる其角の句を評して佳什二十首に上らずという、見る・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ここに集められている数篇の印象記は、所謂文学的すぎる欠点にかかわらず、或る程度までは、必ずその説明の役に立つのだ。 読者諸君。自分は約束する。この次の本には、もっと組織的に、全般的にソヴェト同盟の生活を紹介することを。同時に、きっと、も・・・ 宮本百合子 「若者の言葉(『新しきシベリアを横切る』)」
・・・の方は、主題のつかみかたがプロレタリア的な立場で見れば敗北主義くさいという、理論上の欠点ももっていた。 だが、あれをよんで、自分は興味をもって二つのことを感じた。一つは、中野君の作品を批評する場合、みんなの合言葉みたいになってつかわれる・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ しかし、このようなことは、作品の欠点とはならずに、すべて作者の制作中の意識作用から眺めた作品の見方で通用するものとは私も思っていない。作品批評をする場合には、もちろん、作品が中心であるのだから、こんなことはどうでもよさそうなものである・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・そして、尾翼に欠点のあることを発見して、「よくなりますよ。あの飛行機は。」と云ったりしたが、氾濫しつつ彼の頭に襲いかかって来る数式の運動に停止を与えることが出来ないなら、栖方の頭も狂わざるを得ないであろうと梶は思った。 正確だから狂うの・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ 私はこの事によって自分のもっと重大ないろいろな欠点を示唆されたように思いました。二 私は自分のイゴイズムと戦っています。イゴイズムそのものは絶滅は望まれないまでも、イゴイズムをして絶対に私の愛を濁さしめないことは、私の・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・ 大業にし過ぎるということは若い者にあり勝ちの欠点かも知れない。重大事を重大事として扱うのに不思議はないと思うから。しかし引きしめて控え目に、ただ核実のみを絞り出す事は、嘘を書かないための必須な条件であった。製作者自身は真実を書いている・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫