・・・この概観は初め一九二二年に現れ、次いで一九三四年に改訂版が出た。ウエルズは大系を五分の一ほどに圧縮し、内容も殆ど全部かき直した。それはそうであったろう。一九二二年から後の十年間こそ今日の世界史の大動揺がその底に熟しつつあった深刻な時代であっ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ 次いで、マリーナ・イワーノヴナ、最後にジェルテルスキーの長い脚が、左右、左右、階段の上に隠れるのを見届けると、下の小さい娘は自分達の部屋へかけ込み、息を殺して、「お婆ちゃん、三人、異人さん」と報告した。 ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・とけたたましい叫びが起った。次いで、ワーッと云う物凄い鬨声をあげ、何かを停車場の外へ追いかけ始めた。 観念して、恐ろしさを堪えていた私は、その魂消たような「いた! いた!」と云う絶叫を聞くと水でも浴びたように震えた。走っている列車か・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・十八年三月十七日に妙解院殿卒去遊ばされ、次いで九月二日景一も病死いたし候。享年八十四歳に候。 兄九郎兵衛一友は景一が嫡子にして、父につきて豊前へ参り、慶長十七年三斎公に召しいだされ、御次勤仰つけられ、後病気により外様勤と相成り候。妙解院・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ 物音を聞き附けて、最初に駆け附けたのは、泊番の徒目附であった。次いで目附が来る。大目附が来る。本締が来る。医師を呼びに遣る。三右衛門の妻子のいる蠣殻町の中邸へ使が走って行く。 三右衛門は精神が慥で、役人等に問われて、はっきりし・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・そんな時は、そばに母の寝ていぬのに気がついて、最初に四歳になる初五郎が目をさます。次いで六歳になるとくが目をさます。女房は子供に呼ばれて床にはいって、子供が安心して寝つくと、また大きく目をあいてため息をついているのであった。それから二三日た・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・三 ファウストの訳本は最初高橋五郎君のが出た。次いで私のを印刷しているうちに、町井正路君のが出た。どちらも第一部だけである。私は自分が訳してしまうまで、他人の訳本を読まずにいた。第一部も第二部も訳してしまってから、両君の第一・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・が、しばらくの間この群落のなかを進んで行って、そういう気分に慣れたあとであったにかかわらず、次いで突入して行った深紅の紅蓮の群落には、われわれはまたあっと驚いた。この紅蓮は花びらの全面が濃い紅色なのであって、白い部分は毛ほども残っていない。・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・この作は明らかに次いで現われた『明暗』の前提をなしている。『明暗』においては利己主義の描写が辛辣をきわめているにかかわらず、作者は各人物を平等に憐れみいたわっている。そうして天真な心による利己主義の征服を暗示するのみならず、一歩一歩その征服・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・とすれば、タリム盆地は、アフガニスタンに次いで塑像を発達させた場所であったかもしれない。 麦積山は敦煌からはだいぶ遠い。ホタンから敦煌まで来れば、大体タリム盆地を西から東へ突っ切ったことになるが、その距離と敦煌から麦積山までの距離とは、・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫