・・・ 私は一般平均から見ても、また個別的に見ても、学芸にかけての日本人の頭が少しでも欧米文化国民のそれに劣らないものだと信じて疑わないものである。しかし今までのところでまだ学芸方面において世界第一人者として、少なくとも公認されたものの数のは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうしてこれらの新日本映画が逆にちょうど江戸時代の浮世絵のごとく、欧米に輸出される。こういう夢を見ることはたいした愛国者でなくてもあまり不愉快なことではあるまい。 こんな空想にふけりながら自分は古来の日本画家の点呼をしているうちに、ひょ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・その後故郷を離れて熊本に住み、東京に移り、また二年半も欧米の地を遍歴したときでも、この中学時代の海水浴の折に感じたような郷愁を感じたことはなかったようである。一つにはまだ年が行かない一人子の初旅であったせいもあろうが、また一つには、わが家が・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・この言葉の中には欧米学界の優越に対する正当なる認識と尊敬を含むと同時に、我国における独創的の研究の鼓吹、小成に安んぜんとする恐れのある少壮学者への警告を含んでいたのである。「どうも日本人はだめだ」と口癖のように言っていた、その言葉の裏にもや・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ノルウェーの理学者が北光の研究で世界に覇をとなえており、近ごろの日本の地震学者の研究はようやく欧米学界の注意を引きつつある。しかしそれでもまだ灸治の研究をする医学者の少ないのと同じような特殊の心理から火事の研究をする理学者が少ないとしたらそ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ 日本の大学へ、欧米から留学生が押しかけて来るようになったら、日本の製造工場へピッツバーグやスケネクタディあたりから、見習職工が集まって来るようになったら、そうしたら、一切のこういう問題はなくなるだろう。 米国の排日法は、桐の一葉の・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・そうして細長い島国の両側に大海とその海流を控え、陸上には脊梁山脈がそびえている。そうして欧米には無い特別のモンスーンの影響を受けている。これだけの条件をそのままに全部具備した国土は日本のほかにはどこにもないはずである。それで、もしもいわゆる・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・馭者が二人、馬丁が二人、袖口と襟とを赤地にした揃いの白服に、赤い総のついた陣笠のようなものを冠っていた姿は、その頃東京では欧米の公使が威風堂々と堀端を乗り歩く馬車と同じようなので、わたくしの一家は俄にえらいものになったような心持がした。・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・露西亜は欧米の都会に在ってさえ人々の常に不可思議なる国土となす所である。況やわたくしは日本の東京に於て偶然露西亜語を以て唱われた歌曲を聴いたのである。九月一日初日の夜の演奏はたしか伊太利亜の人ウエルヂの作アイダ四幕であった。徐に序曲の演奏せ・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・故にかの西洋家流が欧米の著書・新聞紙など読みてその陰所の醜を探り、ややもすればこれを公言して、以て冥々の間に自家の醜を瞞着せんとするが如き工風を運らすも、到底我輩の筆鋒を遁るるに路なきものと知るべし。 日本男子の内行不取締は、その実にお・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫