・・・ さてそのうちに日もたって冬はようやく寒くなり雪だるまのできる雪がちらちらとふりだしますと、もうクリスマスには間もありません。欲張りもけちんぼうも年寄りも病人もこのころばかりは晴れ晴れとなって子どものようになりますので、かしげがちの首も・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・「この子はなかなか欲張りですよ」「あら、叔母さん、そんなことはないわ」「まア、一つさしましょう」と、僕は吉弥に猪口を渡して、「今お座敷は明いているだろうか?」「叔母さん、どう?」「今のところでは、口がかかっておらない」・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・と云うものはそんな傾向をもっておらないようなもの、その傾向に応じて世の中に処して来なかったものは皆死んでしまったので、今残っているやつは命の欲しい欲張りばかりになったのだと論ずる事もできるからであります。御互のように命については極めて執着の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫