・・・ しかもこの奇妙な本の中で、フロレンス・ナイチンゲールは時々宗教の議論も労働者の問題も忘れて、当時の上流婦人の地位や家庭生活の虚偽、結婚の欺瞞と因習の無意味さとを痛罵している。彼女のはげしい筆端が深い憤りに震えながら、裕福な家庭の未婚婦・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・そして、様々の文学現象が次々と現われて来るに跟いて動いて、そのような現象のおこる動機をひとしなみに社会的・文学的必然として尊重し、結果としては現実に対する自己欺瞞の意識や擬態を正当化するようになった。作家と読者との相関のいきさつのなかに文学・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ 一八六一年にアレキサンダア二世が欺瞞的な農奴解放を行い、ゴーリキイが生れた時分、もう農奴制そのものは廃止されていたけれども、二百五十年にわたったロシアの農奴制によってしみこんだ封建制は、家庭の内に信じられない父の専制、主人と雇人との間・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・というものを混同していて、軍国主義権力の欺瞞と破壊への憤りが「社会」一般にむけられていようとも。あるいは生活の幸福というものを、動かない形にはめて考えてきた老年の女性が、こわされながらもまだ生活の現実にのこっている積極な可能性をつかめないで・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・日本資本主義独得のひねくれ、欺瞞と粗野、卑屈のジャングルをかきわけて、明るい世界の心をわけもたずには自分を生存しているものとして感じられなくなっているきょうの日本の真面目な人々の理性と心情に、「一九一四年夏」を生きたジャックは何を語るだろう・・・ 宮本百合子 「脈々として」
・・・その深い危険の温床は、ほかならぬ憲法改正草案の欺瞞性に在るのである。 天皇に、拒否権の無いことを明示していないのは、臨機応変的解釈の危険がある。ところが、この頃自由党は、却って天皇に拒否権を与えようと大いに努力している。その自由党の鳩山・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・れてやる、という態度が離婚の自由の正しい認識でないとともに、客観的には、離婚した母と子との生活保証がされる法律上の条件が必要であると共に、社会的に保証が実現される可能がなければ、離婚の自由ということは欺瞞になる。 憲法や民法で、婦人の立・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫