・・・上を見ますと、梁や止り木に、およそ百羽ほどの鳩がとまっていました。みんな、眠っているように見えましたが、二人が近づくと、少しからだを動かしました。「これは、みんな、あたしのだよ。」とラプンツェルは教えて、すばやく手近の一羽をつかまえ、足・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・手を入れた時、さっと上の止り木に舞い上った鳥等は一枝、一枝と降り、私の指先がまだ皆は籠から出ないうちに、もう群れ集って食べ始めた。ツーともチチとも云わない。まことに飢えたものの真剣さを、小さい頭、柔かい背に遺憾なく顕わして、せっせと、只管に・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・瘠せた猿がちょこなんと止り木にのっている。前に立って飽かれた妻が重そうな丸髷を傾け、「猿公、旦はんどこへ行かはったか知らんか」と訊いている。―― 絵物語の女が桃龍自身の通り大きな鼻をもっているところ、境遇的な感じ方で描くところ、・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・少し空が曇り、北風でも吹くと、元気な文鳥以外のものは、皆声も立てず、止り木の上にじっとかたまって、時雨れる障子のかげを見ているのである。 人間でも気が滅入り、火鉢の火でもほげたく思うような時、袖をかき合わせて籠をのぞくと、一層物淋しい心・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・ 日曜を一日、孝ちゃんの助手で作りあげた小屋には戸も何にもなくって、止り木と、床の張ってある丁度蓋のない石油箱の様なものでその三方を人間のくぐれそうな竹垣が取り巻いてある許りだった。 猫や犬の居ない国に行った様な、何ぼ何でもあんまり・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫