・・・そしてその復活は元のままのくりかえしではなく必ず新しく止揚されて、現段階に再登場しているのだ。その二千五百年間の人間の倫理思想の発展と推移とを痕づけることは興味津々たるものである。 倫理学史にはフリードリッヒ・ヨードルの『倫理学史』、ヘ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それらの相反するものが融合調和し相互に扶助し止揚することによって一つの完全なる全体を合成し、そうして各因子が全体としての効果に最も有効に寄与しているのでなければならない。こういうわけであるから、連句のメンバーは個性の差違を有すると同時に互い・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・彼はショーペンハウエルが揚棄した意志を、他の一端で止揚したまでである。あの小さな狡猾さうな眼をした、梟のやうな哲学者ショーペンハウエルは、彼の暗い洞窟の中から人生を隙見して、無限の退屈な欠伸をしながら、厭がらせの皮肉ばかりを言ひ続けた。一方・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・単純な西洋風をまねたばかりでは活動写真の範囲を出ないし、われわれの日常生活の習慣が感情表現に加えている長年の制約を、演技的に止揚することは大切な努力の一つとして将来に期待されることである。「裸の町」を観ても感じたことであったが、日本の女・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・ 集団農場化は、大局から見て、都会の工業に対する農村のこれまでの植民地関係を止揚するばかりではない。一人一人の貧農・中農の直接の利害から云って集団農場に加入する方がずっと割がいいことを明らかにした。 五ヵ年計画で、ソヴェト農民の一人・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・感覚的な止揚性を持つまでには清少納言の官能はあまりに質薄で薄弱で厚みがない。新感覚的表徴は少くとも悟性によりて内的直感の象徴化されたものでなければならぬ。即ち形式的仮象から受け得た内的直感の感性的認識表徴で、官能的表徴は少くとも純粋客観から・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫