・・・椿年は南岳の弟子で、南岳は応挙の高足源に学んだのだから、椿岳は応挙の正統の流れを汲んだ玄孫弟子であった。 馬喰町時代の椿岳の画は克明に師法を守って少しも疎そかにしなかった。その時代の若書きとして残ってるもの、例えば先年の椿岳展覧会に出品・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・それは正統派の恋愛論の核心をなすところの、あの「二つのもの一つとならんとする」願望のあらわれである。ペーガン的恋愛論者がいかに嘲っても、これが恋愛の公道であり、誓いも、誠も、涙も皆ここから出てくるのだ。二人の運命を――その性慾や情緒をだけで・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・主観を言葉で整理して、独自の思想体系として樹立するという事は、たいへん堂々としていて正統のようでもあり、私も、あこがれた事がありましたが、どうも私は「哲学」という言葉が閉口で、すぐに眼鏡をかけた女子大学生の姿や、されこうべなどが眼に浮び、や・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・そうして自分がそれらのビーイングの正統の子孫であると考えてみた。そう思う事によってこの国土に対する自分の愛着の感情は増しても減りはしないような気がする。 最後に「長慶子」という曲を奏した。慶祝の意を表わしたもので、参会の諸員退出の時にこ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そういう人たちにそういう研究を勧めたいと思うのが、私のこの一編を書くに至った動機であったのである。正統的教養の楽園に安住する専門的物理学者の目から見れば、あまりに空想をたくましゅうした叙述が多かったように見えるかもしれない。 しかしこれ・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 神皇正統記が大日本者神国なり、異朝には其たぐいなしという我国の国体には、絶対の歴史的世界性が含まれて居るのである。我皇室が万世一系として永遠の過去から永遠の未来へと云うことは、単に直線的と云うことではなく、永遠の今として、何処まで・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ 今日、中間小説が一部の作家から現代文学の正統的な発展であるかのようにいわれている。だが、わたしたちが世界史のすすみゆく現実と、日本の人民の未来とを着実にみとおして、本当に日本の文学がより多数の日本の人々のヒューマニティを語るものとなる・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・保守的な宗教家として正統的なものの考えかたをしている老牧師の娘である女主人公が、かねて愛しあっていた青年と、彼の出征の前夜、自分たちの結婚をする。若い二人は、その異常な別れの夜に、互の愛を互のうちに与えあわずにいられない熱情につき動かされた・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・プロレタリア芸術家たちは、マルクシズム・レーニズムの立場から制作を正統なリアリズムの骨格と肉づけとで組立てることに努力して来た。が、農業と工業との生産労働へ日夜接触して見ると、彼等は自身のリアリズムに多分の機械的マルクシズム、生産に対する知・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・それだけ、この『現代文学論』一冊は、評論としての正統な理論的追究と同時に、文学の芸術的因子にこまかくふれた論考であるということが云えるのだと思う。 この十年の間に、日本の文学は実に激しい風浪にさらされた。社会の屋台骨ごと揉まれている。著・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
出典:青空文庫