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・・・「お前も武者修業に出るのかい」「はい」と云ったが、りよは縫物の手を停めない。「ふん」と云って、叔父は良久しく女姪の顔を見ていた。そしてこう云った。「そいつは駄目だ。お前のような可哀らしい女の子を連れて、どこまで往くか分からん旅が出来・・・
森鴎外
「護持院原の敵討」
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・・・ところへ大層急ぎ足で西の方から歩行て来るのはわずか二人の武者で、いずれも旅行の体だ。 一人は五十前後だろう、鬼髯が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が・・・
山田美妙
「武蔵野」