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・・・これがないとあらゆる歯音が消滅して言語の成分はそれだけ貧弱になってしまうであろう。このように物を食うための器械としての歯や舌が同時に言語の器械として二重の役目をつとめているのは造化の妙用と言うか天然の経済というか考えてみると不思議なことであ・・・
寺田寅彦
「自由画稿」
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・・・小さい男の子が、そんなことを云いながら、せんべを犬の方へ投げてやった。歯音をカリカリ立ててすぐ喰べた。ひどくおなかすかしているの。というのは本当らしい。 人間が椅子の上でちょいと体を動かしても、三四間先の地べたにいるその犬はすぐ反応して・・・
宮本百合子
「犬三態」