・・・社殿の雪洞も早や影の届かぬ、暗夜の中に顕れたのが、やや屈みなりに腰を捻って、その百日紅の梢を覗いた、霧に朦朧と火が映って、ほんのりと薄紅の射したのは、そこに焚落した篝火の残余である。 この明で、白い襟、烏帽子の紐の縹色なのがほのかに見え・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 生活の革命……八人の児女を両肩に負うてる自分の生活の革命を考うる事となっては、胸中まず悲惨の気に閉塞されてしまう。 残余の財を取纏めて、一家の生命を筆硯に托そうかと考えて見た。汝は安心してその決行ができるかと問うて見る。自分の心は・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・米の中から栄養分を摂取して残余の不用なものを「米とは異なる糞」にして排泄するのならば意味は分かるが、この虫の場合は全く諒解に苦しむというより外はない。『西遊記』の怪物孫悟空が刑罰のために銅や鉄のようなものばかり食わされたというお伽話はあ・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・無限にあるべきはずの残余の項の効果が微小となるのは、あながち最初に出した簡単な級数のようになるというのではない。彼の級数は収斂の仕方の遅いものである。ここで云う残余の項は多くはもっと速やかに急に収斂するのである。また一つ忘れてならぬ事はこれ・・・ 寺田寅彦 「方則について」
出典:青空文庫