・・・徐ろに患者を毒殺しようとした医者、養子夫婦の家に放火した老婆、妹の資産を奪おうとした弁護士、――それ等の人々の家を見ることは僕にはいつも人生の中に地獄を見ることに異らなかった。「この町には気違いが一人いますね」「Hちゃんでしょう。あ・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・はては、クロオジヤスの后になりすまして、そうしてクロオジヤスを毒殺する。それから、もっともっと悪いことをする。おかげでネロは位についた。それから、――」「ネロも悪い事をする。」詩人は落ちついて言った。「いや、アグリパイナは、ネロの恋・・・ 太宰治 「古典風」
・・・五倍も六倍も残忍性を発揮してしまう男なのであるから、たちどころにその犬の頭蓋骨を、めちゃめちゃに粉砕し、眼玉をくり抜き、ぐしゃぐしゃに噛んで、べっと吐き捨て、それでも足りずに近所近辺の飼い犬ことごとく毒殺してしまうであろう。こちらが何もせぬ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・たとえばだいじのむすこを毒殺された親父の憂鬱を表現する室内のシーンでもその画面の明暗の構図の美しさはさまにレンブラントを想起させるものがあるが、この場面のいろいろなヴァリエーションが少なくも多くの日本人には少し長すぎるであろうと思われる。し・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・例えば毒殺の嫌疑を受けた十六人の女中が一室に監禁され、明日残らず拷問すると威される、そうして一同新調の絹のかたびらを着せられて幽囚の一夜を過すことになる。そうして翌朝になって銘々の絹帷子を調べ「少しも皺のよらざる女一人有」りそれを下手人と睨・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・そのゴーリキイが、ソヴェト人民の建設をさまたげようと企んだトロツキー一派の反革命派のために毒殺されたのは一九三三年でした。ゴーリキイはそのとき六十五歳でした。 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
帝銀事件として、帝国銀行椎名町支店におこった全行員から小使一家までの毒殺事件は、意味のわからないほど惨酷な毒殺方法で、すべての人の心を寒くした。犯人の目星がついた、つかないと、推理小説家まで動員されてのさわぎのうちに、日は・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
出典:青空文庫