うす暗き片すみにかがむ死の影は夜の気の定まると共にその衣のひだをまし光をまし 毒気をまして人間の心の臓をうかがいて迫る。黒き衣の陰に大鎌は閃きて世を嘲り見すかしたる様にうち笑む死の影は長き衣を・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・ 作者は人生を愛さずにはおれなく、小説家以上の芸術家を求めずにおれず、その気分はしみ入って来るのだが、遺憾なことに、現代の頽廃の毒気がある程度まで智慧の働きに作用している。最後の一、二ページで、作者は、亮子にほとんど過重な内的容積をもり・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・インテリゲンツィアの中にはもっと質のわるい毒気をふきかける人々もいた。彼等は飲んだくれながら、嗄れ声で云った。「君は何だ? パン焼き――労働者、不思議だ。そうは見えない。俺はパリで、人類の不幸の歴史、進歩の歴史を勉強した。そうだ、書きも・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・或は「精力が伝染するように無気力も伝染するもので、この太古のままに生きている人々の魂から、彼の活動的精神を毒するなにか鈍い毒気のようなものが、機械についた錆のように発散されるのだ」そして、「少しずつ彼を吸いとって弱めてゆく微妙なあるもの」は・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
出典:青空文庫