・・・何だか気乗りのしないのがあります。どことなく機械的なのがあります。私の技巧と云うのは、この種の技巧を云うのであります。私の非難したいのは、この種の技巧だけで画工になろうと云う希望を抱く人々であります。無論諸君は、画工になるにはこの種の技巧だ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
私は筆を執っても一向気乗りが為ぬ。どうもくだらなくて仕方がない。「平凡」なんて、あれは試験をやって見たのだね。ところが題材の取り方が不充分だったから、試験もとうとう達しなくって了った。充分に達しなかったというのは、サタイア・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・岸ですから、何か哺乳類の足痕のあることもいかにもありそうなことだけれども、教室でだって手獣の足痕の図まで黒板に書いたのだし、どうせそれが頭にあるから壺穴までそんな工合に見えたんだと思いながら、あんまり気乗りもせずにそっちへ行ってみました。と・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・老夫婦が金貸しか何かそういう種類の職業で鍛えた頭で割り出し、目下千鶴子にすすめている縁談が、彼女にとって気乗りのしないのは無理なく思えた。然し、その話のみならず、全体として結婚しようか、しまいか、大局に於ての決心がつかない苦しみの方が大きい・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ 他の例というのは、若い文壇関係の人の口から一度ならず、政治家や軍人なんぞはなかなかどうしていいところがある、第一実に率直だし、明快だし、会っていて人間的に愉快ですよ、という言葉をさも気乗りのしているらしい表情とともに聞かされることであ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫