・・・「必ず魂魄だけは御傍へ行って、もう一遍御目に懸りますと云った時に、亭主は軍人で磊落な気性だから笑いながら、よろしい、いつでも来なさい、戦さの見物をさしてやるからと云ったぎり満州へ渡ったんだがね。その後そんな事はまるで忘れてしまっていっこ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・なぜなら、この森が私へこの話をしたあとで、私は財布からありっきりの銅貨を七銭出して、お礼にやったのでしたが、この森は仲々受け取りませんでした、この位気性がさっぱりとしていますから。 さてみんなは黒坂森の云うことが尤もだと思って、もう少し・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・「あの熱のあるところが、お孝さんの気性に合うのだね。ただの役者じゃないよ」 そして、感慨ふかげであった。「お孝さんも熱情家だからね、品川の伯父さんの娘だけあって、あらそわれないところがある」 シラノ・ド・ベルジュラックを白野・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・私は話に聞く彼の気性又は帰朝後一致されなかったすべての周囲の状態を思い浮べると、病院の飯は不美味いと云うのは極く極く表面的な理由であったろうと云う事に思い及ぶのである。 彼は死ぬまで彼自身でありあらせ様とした。此頃は、或点までは彼が随意・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・どこか気性に独創的なところのある、富裕な教養たかいこの令嬢のまわりには、当然崇拝者の何人かが動いていたろうしまたどこの社会でも共通なように、彼女の両親の社会的な地位により多くの魅惑を感じている青年やその親たちが、月並のお世辞で彼女をとりまい・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ マクシムの命を救ったのは彼の沈着で豪毅な気性と素面であったことであった。この椿事のためにマクシムは七週間も患った。その夏ヴォルガ河口に在るアストラハン市で凱旋門を建てる仕事があって、マクシムは妻子をつれ移住した。四年ぶりでニージニへ戻・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・それでいて、西洋文明のうちでもいちばん悪い戦争の道具はこれをとりあげるようなはげしい気性をうちに持っているのです」という所謂民族性の解釈とを、自身疑いを抱くところもなく並列させているところである。最後の特徴を中国民族の性格のうちにある自家撞・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
・・・今度は十六ばかりの小柄で目のくりくりしたのが来た。気性もはきはきしているらしい。これが石田の気に入った。 二三日置いてみて、石田はこれに極めた。比那古のもので、春というのだそうだ。男のような肥後詞を遣って、動作も活溌である。肌に琥珀色の・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫