・・・悪気流は、人間らしい知性の開発と光彩とを圧しつつもうとしている。それに対して抗いつつ、或る必要な力をもっていないという自覚に苦しんでいる、そこから現代のトスカが湧くのである。知性の喪失を、梶が謳歌していることに対して、もし、苦しんでいる知識・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・体の丈夫な者、働くもの、そういう女性だけがこの人生に存在する権利をもっていて、弱いひと、患って働けないものは、無視されなければならないという感情がどこかにかあるほど、現在の日本の世間の気流は荒々しくなっているのでしょうか。 一、学年末・・・ 宮本百合子 「ルポルタージュの読後感」
・・・ 大衆の組織が、短時間の活動経験を持ったばかりで、私たちの日常の耳目の表面から退潮を余儀なくされて後、その干潟にはさまざまの残滓や悪気流やが発生した。いかにも若い、しかしながらその価値は滅すべくもない経験の慎重な発展的吟味のかわりに、敗・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・だが、近頃、若い男女が、反動に対する消極的な反撥のポーズの一つとして、今日私たちが生きている社会の悪時代を強調し、その悪気流の中で馬鹿ででもなければ、空虚感を持たずにいられる筈がない、と思っているのには、疑問がある。 顔の前に短く垂れた・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
・・・丘は街の三条の直線に押し包まれた円錐形の濃密な草原で、気流に従って草は柔かに曲っていた。彼はこの草の中で光に打たれ、街々の望色から希望を吸い込もうとして動かなかった。 彼は働くことが出来なかった。働くに適した思考力は彼の頭脳を痛めるのだ・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫