・・・ 斯の如き人々は、箇人主義の胸の上の水泡となって数知れずただようて居るのである。 私はそれを悲しむ。 私は、箇人主義は、より偉大なものである事を知って居る。 今の現れが箇人主義の最もよい現れではないのである。私は敢て、箇人主・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・ 女学校の二年ぐらいから、玄関わきの小部屋を自分の部屋にして、こわれかかったような本棚をさがし出して来て並べ、その本棚には『当世書生気質』ののっている赤い表紙の厚い何かの合本や『水沫集』も長四畳のごたごたの中からもって来ておいた。 ・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・ けれ共、松のある出島の裾まで、白い波頭がゆるやかに見渡せて、ザザザザ――と云う響が、遠くから、次第に近く、よせて来て低い砂を□(う波が、白い水泡をのこしては引いて行く様子は必(して悪いはずもない。 江の島があるばっかりに、ここいら・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・径二寸もあろうかと思われる、小さい急須の代赭色の膚に Pemphigus という水泡のような、大小種々の疣が出来ている。多分焼く時に出来損ねたのであろう。この蝦蟇出の急須に絹糸の切屑のように細かくよじれた、暗緑色の宇治茶を入れて、それに冷ま・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫