・・・ 浅緑 十二「大事ねえ大事ねえ、水浸しになっていた衣服はお前あの通だ、聞かっせえ。」 時に絶えず音するは静な台所の点滴である。「あんなものを巻着けておいた日にゃあ、骨まで冷抜いてしまう・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ と、水浸しの丸太のような、脚気の足を、襖の破れ桟に、ぶくぶくと掛けている。 と主人が、尻で尺蠖虫をして、足をまた突張って、 その挙げた足を、どしんと、お雪さんの肩に乗せて、柔かな細頸をしめた時です。(ああ、ひも・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 河向いから池までの熊笹を切開いた路はぐしょぐしょに水浸しになって歩きにくかった。学校の先生らしい一行があとから自分らを追越して行った。 明神池は自分には別に珍しい印象を与えなかった。何となく人工的な感じのする点がこの池を有名にして・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
出典:青空文庫